薔 薇 想 歌   





「……なんっか変じゃない……?」
「あ、メイもそう思ってた?実は私もそこはかとなく、というかとてつもなく?」
「……ええ、私も……」
 王宮の一室。バレンシアの王妃となっても、その愛らしさと人懐っこさは変わらない、ミラの生まれ変わりとさえ云われ人々から慕われるセリカは少し気鬱そうな声で頷いた。
「……う〜ん、なんていうか予想が大きく外れたというか、こんな筈ではないというか……」
「……別に今ここには私達以外誰もいない上、お部屋も広いからそんな小さな声で話さなくてもいいのよ、メイ?」
「わかってるよ、ようは気分の問題なの、気分!」
 潜めるようにこそこそと話すメイに不思議に思ったのかデューテがつっこむ。
 時折、こうやってデューテやメイなどは王宮に遊びに来てはセリカとお茶会という名の、井戸端会議?を開いている。もっぱら、年頃の女の子にありがちな噂話や世間話が多いのだが王妃となってからはあまり外出できないセリカにとってはこうやって気軽に話せるメイ達の存在はとても大切であった。
「……なんっか変なのよね……?」
「うんうん、もっとこう辺り一面お花畑〜っていうか頭上で天使のラッパが鳴り響いてます〜っていう雰囲気が醸し出されてもおかしくはないんだけど」
「……ええ、この間会った時も無意識に溜息吐いてたし……」
 辺り一面花畑……ってどんな雰囲気だ、とは心中だけのつっこみだけにしておいてセリカは思い出された光景に溜息を吐いた。
「前、私がちらっと見かけた時もなんかうわの空だったな〜」
「ほんと……ティータってば、どうしたんだろうね……」
 彼女達の今日の本題は待ち焦がれた恋人が帰って来て幸せいっぱいな筈のティータに関することであった。ジークがいない間友達であるティータを何とか励ましてきた彼女達は、やっとティータに晴れやかな笑顔が戻る、と喜んでいたのも束の間。
 以前のように二人一緒にいるのだが、なんだか様子がおかしい。……とくにティータが。
「……ジークさんの様子はどう?」
「う〜ん、この前帰って来られたとき、アルム……王に挨拶に来たんだけど、そのときは別に変わったところとかはなったのよね……」
 再び悩み出す彼女達。


「……あ!」
 そのとき、ぽんっと、何か閃いたかのように手を叩くメイに視線が集まる。
「何?」
「何かわかったの?」

「……ふっふっふっふ、わかったわ!いわゆるマリッジ・ブルーというやつよ……!!」
 勝ち誇ったような笑みを浮かべわざとらしい高笑いを放つメイにセリカとデューテは驚いて声を上げた。
「……えっ、マリッジ・ブルーって結婚するときに花嫁が味わうやつ……?」
「ていうか、つついに結婚ーーー!?? きゃぁ〜やっぱねー! そろそろと思ってはいたのよ!」
 きゃぁきゃぁとはしゃぎ出すデューテ。
「セリカ様もアルムと結婚するときなってたもんね〜」
「―あっ!あ、あれは、いきなりだって準備が物凄く忙しかっただけなんだからね……! 別に憂鬱なんてならなかったもん!」
 顔を真っ赤にして反論し出すセリカを面白そうに見遣るメイ―根っからのからかい好きな少女である。
「あ〜成る程〜、でもそれだったらもっと全身で喜びを表現しててもいいくらいなのにね。ティータがマリッジ・ブルーなんて信じらんないなぁ……。相手はジークさんだし」
「ジークさんだし、色々大変なんじゃない? ほら、やっかみとかさ。ジークさんを狙ってる人って結構いるみたいだし」
「う〜ん、でもそれでもなぁ……」
「ん〜、じゃ、それとは反対で、ジークさんがプロポーズしてくれないから悩んでるとか!」
「あ、それありえる!」
「それだったら、ティータさん悩むの分かるなぁ……」
「―やっぱり」
 ごほん、と改めてせきをする。
「ここは、私達が何とかすべきではないでしょうか?」 
 そしてにやりと、含み笑いを浮べるメイに同じように返すデューテ、セリカもすっかりティータに同情したのか協力する気まんまんで力一杯頷いていた。

「それは大賛成として、具体的にはどうする?」
「―そう言えば、もうすぐ、ミラの収穫祭の時期よね……」
「!」
「今まではやむなく中断されていたけど、今年はミラ様も復活されてソフィアも大豊作。中断されてた分、大陸を上げての祭りになるわ。そこで大々的に挙げちゃうってのはどう?準備は私達でして」
「それ、いいわね!」
「素敵……!」
 メイの提案に大賛成の意を表す少女達。
「ちょーと、神聖なイメージと外れちゃうかもしれないけど、でもお祭り的な盛り上がりも素敵だと思うし。神聖な式は後でいくらでも挙げてもらえればいいし」
「うんうん、では準備は私達で頑張りましょう!」
「くれぐれも本人達には絶対内緒でね!あとは……マチルダさんやジェニー達にも協力してもらいましょう」
「わかったわ」


 最年少であるメイの進行による念密な作戦会議はこのあと日が暮れるまで続いたという。