大陸一の豪槍 









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「あらまあ、どういたしましたの? ずいぶんと不幸せそうな顔ですわね」
 エフラムが治療の礼を言いにラーチェルの天幕を訪れた際、一番最初に飛び出したのはそういう言葉だった。
「いきなり言ってくれるな」
 そんなに顔に出ているのかと、エフラムは垂れ幕を払って苦笑した。顔をのぞかせた途端に言われたのだから、誰が見てもわかるほどなのだろう。
 本来ならば男子禁制の女子天幕が並ぶ一角。警備すら既婚者の兵士しかつけていないそこに立ち入れるのは、王族としてのエフラムの特権であるが、さすがにエイリーク以外の女性の天幕に立ち入るのは初めてである。
 領内ということもあって、三国連合軍の主力をなすロストン聖騎士団の運んできたラーチェルの天幕は豪奢のひとことだ。他の者は一つの天幕にニ、三人でまとまるのが普通であるのに、この天幕は十数人が入ってもまだ空きがあるほどに広い。嗜好品の類も群を抜いて多く、あらかじめドズラを通じて来訪を伝えてあったためか、テーブルの上には湯気を立てる茶と菓子の一式が揃えられているくらいだ。
「……野営地とは思えないな」
「叔父様が色々用意してくださったんですの。いかが?」
 呆れるエフラムに、ラーチェルは優雅にティーカップを傾けながらそう誘った。仕方なしに椅子につくが、エフラムは紅茶だけは丁重に断った。
「今飲むと眠れなくなりそうだ。夜明けまで仮眠を取って、すぐに出るぞ」
「まっ。お茶を楽しむ余裕も無いようでは、ロクなことにはなりませんわよ。指揮官がそれでは、先が思いやられますわ」
「……君は、戦場でもその余裕を失わないんだろうな」
「当然ですわ」
 コロコロと、楽しそうにラーチェルが笑う。彼らしくも無く嫌味のつもりで言った言葉をかわされ、エフラムはため息をついてティーカップに指を絡めた。
 そんなエフラムの様子に、ラーチェルはあらまあと目を見開く。
「本当に元気ありませんわね。仕方ありませんから、特別なお菓子を差し上げますわ。内緒ですわよ?」
「特別なお菓子?」
 ええ、と少女は部屋の端に置いてあった宝箱のようなものから、可愛らしくレースの飾り布で口を閉じた菓子袋を取り出した。
「先日、ロストンの宮殿に寄った際に、叔父様のためにクッキーを焼きましたの。叔父様は泣いて『もう結構』とおっしゃいましたわ。ドズラはお酒の肴にぴったりだと言いましたし、レナックなんて恐れ多いので神に感謝してから食べると、部屋に持ち帰ったんですのよ?」
「持ち帰ったのか……そうか」
 それは彼の口に入ることはなかったんだろうな、とエフラムはレナックの機転に舌を巻いた。だが、同じ手は通用しそうも無い。
「どうぞ、お召し上がりになって。エイリーク直伝ですのよ」
「…………」
 茶の席で、しかもこのような状況で菓子を出されて、どうしたらそれを拒むことが出来るのかなど、エフラムには想像もつかない。レナックはどのように切り抜けたのだろうと思いつつ、彼はやや焦げた色合いの四角いクッキーを一枚口に運んだ。
 そして。
「すまないが、もう一杯もらえるか……クッキーの味は、そうだな、もう少し辛くない方
がいい」
 飲まないと言った茶を飲み干している自分がいたりした。礼を言う前に力尽きかけたエフラムは、ラーチェルの言動に流されないように、気持ちを新たにしてから顔を上げた。
「用件はだな」
「まだ不幸せそうですわね。なら、とっておきの──」
「待て! どうしたんだ、いったい……。俺は不幸じゃないし、茶を飲みに来たわけでもない。君に礼を言いに来たんだ」
 どうしても会話を途切れさせたいらしいラーチェルに苛立ち、エフラムはついに強引に用件を切り出した。すると、少女は目をいっぱいに大きくして、怪訝そうにエフラムを見た。
「わたくしを叱りに来たのではありませんの?」
「どういう理由で俺が君を叱らないといけないんだ。自分が倒れるまで俺に癒しを施してくれたと聞いたから、その礼を言いに来ただけだ」
「まあっ。意外に律儀ですのね! てっきり、わたくしがあの時邪魔になったことをおっしゃりに来たのかと思っていましたわ」
「あの時……ああ」
 言われ、ようやくエフラムも合点がいった。
 ようするに。
「一騎打ちの時のことを気にしていたのか。あれは、君を連れていても勝てると驕っていた俺の油断だ。君が気に病むことはない」
 ズンと、腹の奥底に溜まるような気持ちを押し殺し、エフラムは形だけの笑みを浮かべてそう言った。脳裏に自分を打ち負かした紅の騎士の姿が思い浮かぶが、意識的に排除する。
(もう終わったことだ)
 彼はそう納得しようとしていた。
 だが、ラーチェルはそうではないらしく、
「気にしますわよ。口惜しいですわ。このわたくしがついていながら、ありえない醜態ですわ!」
「……醜態か」
 それは、彼に遠慮して誰も言わなかった言葉。
「指揮官の醜態ほど、士気を下げるものはありませんわ。エフラム、あなたが信頼されていた分だけ、あの敗北は大きな意味を持ちますのよ」
 ギリ、と青年は奥歯を噛み締め、堪えようとした。
 歯に布着せない真実は、彼の敗北を強調するもの。取り返しのつかない失態を実感させるもの。
 自分は強いのだと。そういう矜持の崩壊を教えるもの。
 ――俺に続け。
 と。
 ――俺に任せろ。
 と。
 言い続け、実行することで支えてきたものを、根底から覆すもの。
「わたくしたちは、これから闇の樹海に入りますのよ? そこは魔物の巣。神の光を拒んだ者たちが住まう場所ですわ。そのような場所を進むのに、何よりも必要なのはあなたやわたくしのような、目に見える光ですのよ」
 恐怖を払拭する信頼を与えてくれるもの。
 それであり続けることが、エフラムに課せられた責任だったのだ。
 打ち崩すのは、ただ一度の敗北。
「台無しですわ!」
「く……っ」
 噛み合ってしまう、自責の念とラーチェルの言葉。彼自身が思っていたことを、他人が言わなかったことを、改めて叩きつけられ、エフラムは思い知った。
(これが、敗北するということか……)
 が。
「そうやって台無しにしてしまったのが、あろうことかこのわたくしということが! もう! 最っ高ーに口惜しいのですわ!」
「……何?」
「ですからっ」
 目をぱちくりさせるエフラムに、興奮のためか顔を紅潮させたラーチェルはギロリと据わった視線を向ける。
「あの時、エフラムはわたくしが一緒でなければ勝っていたではありませんの! これでは聖王家の恥さらしですわ。ラトナ様に顔向け出来ませんわっ。麗しの絶世美王女ラーチェルの名折れですわ!」
 ですわですわと連呼してハンカチを噛み締める少女に、エフラムは開いた口が塞がらなかった。
 何を言えば良いのか。
 負けたのは俺だろう、とか。
 麗しの絶世美王女という二つ名を使っているのは君とドズラだけだ、とか。
 色々言うことはあったのだろうが。
 あったのだろうが。
 口に出ていたのは、一つのことだけだった。
「俺は……勝っていた、のか?」
「何をおっしゃってるんですの。わたくしはすぐそばで見ていたんですのよ!? 槍の心得が無くとも、あの時あなたがあの騎士から有利な位置を取ったのはわかりましたわ」
 だから余計に口惜しいのですわ、と少女は言う。
 正直に、思ったことだけ、真実だけを言う。
 ――そう、それは、あまりにも。
「名誉挽回……雪辱戦が必要ですわ。エフラム、耳を貸しなさいな。わたくしに考えがありましてよ」
 あまりにも、指揮官としては許されない、彼の中で目を醒ましていた『それ』を奮い立たせるに充分な言葉であった。
 幼い少年の頃、伝説の魔王を打ち滅ぼして建国を果たした祖先の物語を聞いた。
 その祖先は烈火の槍を操り、果敢に魔に立ち向かう英雄の中の英雄。
 自分の身体に、その英雄と同じ血が流れていると知った時の興奮を、誰に理解してもらえるだろうか。きっと、同じ血を分けた妹にすらわからないに違いない。
 伝説の大陸一の槍使い。
 それを目指す夢。
 成長するに従い、立場に押し潰されようとしていた想い。
 ――開き直れば、意外と簡単なもので。
 青年は、少女に頷いて見せた。
「あら、ようやく不幸せが取れましたわね」
 そういうことなのだろう。
 エフラムはようやくいつも通りの、自信に溢れた笑みでそれに応えるのだった。

                ※

「まずエフラム。あなたの理想をお聞きしますわ。あなたは、あの魔物の軍をどう打ち破りたいんですの?」
 元気を取り戻したエフラムとラーチェルは、今度は本格的な、二人だけの軍議に移っていた。
 しかし、軍議とは言っても、
「俺が多少無理してでも、誰一人犠牲を出さず突破したい。あの騎士、ベルクートは俺が倒す」
「では、わたくしと同じということでかまいませんわね。話が早くて助かりますわ」
「ああ。こっちも助かる。カイルたちにこういうことを言うと、口うるさくてな」
「わかりますわ! レナックもすぐに文句ばかりですのよ。あれは無茶だこれは無理だと……正義を貫く限り、この世に不可能などありませんのに!」
「そうだ。俺も俺なりに勝算があって言っているというのに、あいつらは最初から半ば納得しているくせに文句だけは言ってくる。まあ、それがあいつらの仕事だというのもわかるんだが」
「甘い! エフラムは甘いですわ。敬愛する主君の命であれば、黙って従うのが臣下の忠。例え主君が魔物の群れに飛び込もうと、信頼して待つのが臣下の務めですわ」
「読んだな、『マギ・ヴァル英雄伝』。俺も歴史書は嫌いだが、あの叙事詩は何度も読み返したぞ。俺たちの先祖が活躍する話だからな」
「ええ! そうでしょうとも!」
 意気投合して、二人はうんうんと頷いた。軍議というか、ただの雑談であるが、本人たちとしては恐ろしく早く自分の意見が通る作戦会議である。
 何しろ、お互いにやりたいことが一緒なのだから。
「問題は、ベルクートに辿り着く前の死者たちだが……」
「それはわたくしがどうにかしますわ。エフラムは、敵将を討ち取ることだけを考えていればよろしくてよ」
「助かる」
 自信たっぷりに胸を張る少女に、エフラムは自分も笑みを返してから、ふと思った。
(これだけ気安く話せる女も、珍しいな)
 同じ王族同士、同じ独断専行同士、馬が合うのかもしれない。
 一方は未来のルネス国王。
 一方は未来のロストン正教皇。
(こいつとは、長い付き合いになりそうだな)
 自分たちの親が平和な時代を築いていた頃のような関係を、互いに結べれば良いと思う。この連合軍の中には各国の王族も多いので、そういった意味では貴重な状況だ。
 そんな思いが、ポツリと口から漏れる。
「この戦が終わったら……」
「なんです?」
「今度はゆっくりロストンの森を案内してもらいたいものだ。美しい森だったが、急ぎ足で通り過ぎてきたからな」
「ええ、いつでも訪ねて来てくださいな。その時には、わたくし自らご案内しますわ」
 楽しみにしている、とエフラムは破顔した。その久しぶりに浮かべた少年らしい素の表情から、ラーチェルは彼女にしては珍しく思わず視線をそらす。
「どうした?」
「いえ……そういう顔もなさるんですのね」
 美青年の笑顔に一瞬胸が高鳴ったとは言えず、少女は横を向いたまま言った。そのせいか、どこかツンケンとした突き放すような態度となる。
 いきなりのそれに、エフラムは仏頂面になり、
「どういう顔かは知らないが、悪かったな」
「い、いえ……悪いと言うより、良いですわよ」
「良いのか?」
「そ、そうそう。エフラム、あなた、顔は悪くないのですから、もっとレディの扱いをきちんと学んだらいかが? そうすれば、わたくしの横に並んでも見劣りすることありませんわよ」
「……言ってる意味がわからないんだが、これは喧嘩を売られているのか?」
「ま、まあ! わたくしはあなたのことを思って言ってさしあげているんですのよ!?」
 不思議と頬を赤らめ、少女はエフラムを睨む。
 む〜、と二人はしばし正面から睨み合ったが、その姿の滑稽さに先に気がついたのはエフラムの方だった。ここは大人の理性で自分を抑え、眉間を指で揉み解して言う。
「わかった……女性の扱いだな。覚えておく」
「ふふん。それでよろしいですわ」
 エイリークにでも聞くことにするか、とエフラムはため息をついて、長居しすぎた席を立った。見れば、知らないうちに菓子の類は二人で食べつくしてしまっている。
(これは、胸がむかついて眠れないかもしれんな……)
 だが、我を忘れて――否、久しぶりに『我』を思い出して楽しんだ時間は、思いのほか彼の心を軽くしていた。槍での敗北感もそうであるが、ここ最近軍のことやリオンのことで張り詰めていた緊張が、良い意味で解消されていた。
 口元だけで、微笑む。
「君は、やはり大した癒し手なのかもしれないな」
「なんです、いきなり。あ……肩、もう一度癒しを施しておいた方がよろしいですわね。まだ少し痛むのではなくて?」
「ああ……そうだな。では、頼む。次の戦いには万全で挑みたい」
 ベルクートの髑髏を思い描き、エフラムは勧められるままに寝台に向かい、
「あら、別に椅子に座ったままで……も……!?」
 杖を用意して振り返ったラーチェルの表情が凍りついた。
 青年が、それまで身につけていた上着を寝台の上に放り出して、逞しい裸の上半身をさらけ出していた。時間を忘れて語り合ったために油の乏しくなったカンテラのか細い灯りに照らし出される、エフラムの鍛え抜かれた身体。ルネスの山岳が育み、戦場で武器を振るう度に余分なものが淘汰されてきた、無数の古傷を抱えた戦士の肉体だ。
 普段、刃を通さないための厚手の服や甲冑を着込んでいるために目にする機会の無いその裸体を前に、ラーチェルはしばし固まった後――。
「きゃああああああああああ!?」
 大絶叫して、ルネスの王子を殴り飛ばした。
「な!?」
 パァンと破裂するような平手を喰らって、エフラムは呆気に取られて自分の頬を押さえた。唐突過ぎるそれに文句を言おうとするが、次の瞬間襲い掛かってきた鋼鉄製の杖に目を剥いて離れる。
「あ、危ない。ラーチェル、なんのつもりだ!?」
「そ、そっちこそなんのつもりですのっ。どさくさに紛れてわたくしを襲おうなんて……けだもの! 変態! 悪魔っ! し、信じられませんわー!」
「ど、どういう誤解だっ。待て、落ち着くんだラーチェル――傷が、傷が開くっ」
「いーやー! よーごーさーれーるー!」
 結局、必死に誤解を解こうと詰め寄れば詰め寄るほど逆効果だとエフラムが気づくことはなく。
 あまりの大騒動に駆けつけたエイリークに、年頃の女の部屋で、しかも二人きりでいきなり服を脱ぎだす人がいますか、と叱られて、兄は憮然とすることしか出来なかった。
「傷を見てもらおうとしただけだ」
 という言葉に、何人の仲間がやれやれという顔をしたかは、定かではない。
 そして、その騒動の治まった後、エフラムにこっそり耳打ちしたのは、ラーチェルのお付きのレナックである。
「エフラム様、女の扱いがなっちゃいないですよ。ここは一つ、俺がとびっきりのを教えてやります。ロストン宮殿でも試しましたから、ばっちりっすよ」
 含み笑いしながらエフラムに説明するレナックの姿に、カイルなどは良い顔はしなかったのだが、一緒に聞いていたフォルデは笑った。
 笑って、まさかエフラムでもそんなことだけはしないだろうと、そう同僚に言うのだった。

                ※

 翌日。
 やわらかい生まれたての朝日がようやく森を照らすという時刻まで休息を取った連合軍は、再び闇の樹海へ向けて進軍を再開した。
 行軍中、エフラムは昨夜のことを謝ろうと何度かラーチェルに馬を寄せようとしたが、その度に少女はドズラの影に隠れてしまっていた。そのくせ、視線ばかりはジッとエフラムを睨みつけているのだから、身の置き所が無いことこの上ない。
「ラーチェル。いい加減こちらに来てくれないか。昨夜のことは、俺が悪かった。謝らせてくれ」
「……もうわたくしを襲おうとしたりしませんわね? 近づいた途端、強引に押し倒したりもしませんわね?」
「だから、それは誤解だ」
 根気良く、一国の代表同士とは思えないやり取りをエフラムは続ける。必死なエフラムを、ラーチェルはしばらく観察した後、
「……では、特別に許してさしあげますわ。確かに、あれはわたくしも不注意でした。わたくし、男の方の裸を見たのは初めてでしたから……」
 恥らうように俯くラーチェルに、エフラムは噴き出しそうになった。
「裸って……肩を見せようとしただけなんだが……」
「そ、それだっておおごとですわ! わ、わたくし、あのあと一睡も出来なかったんですのよ!?」
 うら若き乙女にとって一大事だったのだと主張され、エフラムは頬を掻く。王子であるとはいえ、カイルやフォルデと一緒に訓練の後に上半身裸でふらつく程度当たり前だった青年にとって、少女の恥じらいは実感出来ないのである。
(しかし……)
 興味深く、エフラムは林檎のように頬を染めたラーチェルを見遣る。
 押しが強く、小さなものごとになどまったく頓着しないようだった少女が、男の裸一つでああまで取り乱すとは意外だった。
(こいつも女ということか)
 本人に聞かれたら殴られそうなことを考えていると、ようやく隠れることをやめたラーチェルが、今度は睨むというよりもぼうっと見惚れるようにして自分を見ていることに気づく。エフラムも彼女を見ていたので、ちょうど見つめ合う形だ。
 そのまま、数秒。
 まず、ラーチェルの視線が横にそれた。次に、コホンと咳払いをして、視線をまた青年に戻して、まだ自分を見ているその視線にぶつかって、今度は慌てて顔ごと横を向いて、赤い頬を両手でつつみこむように隠す。
 そのせわしない一連に、エフラムは眉根を寄せて尋ねた。
「どうしたんだ。いつもと様子が違うようだが」
 すると、少女はまるで怯えるかのように息を止める。自分の様子がおかしいと指摘されたことに焦った顔で、
「な、なんでもわりませんわ。そ、そんなにじろじろとわたくしを見ないでいただけます。い、いやらしいですわ!」
「……別にそんなつもりはないんだが」
 エフラムがそっけなく肩をすくめて言うと、カチンと気に障った様子でラーチェルの眉が上がる。少女は、先ほどまでの恥じらいはどこに言ったのか、馬から身を乗り出して叫んだ。
「ま、まあ! わたくしの身体つきに魅力がないとでもおっしゃるんですの!?」
「……どっちなんだ君は。見た方がいいのか? 悪いのか?」
「見ないでくださいっ」
 女心など一生わかるものか、とエフラムが閉口したのは、言うまでもない。




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