薔 薇 想 歌   


  そして花は、満開に咲き誇る。





 荘厳な雰囲気の漂うアリティア城。
 その中にある、一室。
 主人の性質を如実に表しているその一室は、アリティア国王、そしてアカネイア連合王国盟主の執務室という名には到底相応しくない、質素で彩られた部屋であった。
 様々な書類が所狭しと置かれている机、その中の一枚を手にとって、この部屋の主は席を立った。背後にあった大きな窓の外に広がる青空を視界にいれながら、その書類にゆっくりと目を通す。
 つい先程、遣いの者が提出した報告書だ。


「マルス様、とても嬉しそう」
 そう言って、煎れ立ての紅茶を差し出したのは蒼い髪の少女、シーダ。
「そう見える?」
 つい最近妻となった可憐な少女の笑顔にマルスも、嬉しそうな色を含ませた声で返した。紅茶を受け取って、口に含む。鼻孔をつく芳香に合わせて口内に広がるそれに、「おいしい」とカップを眺めながら感想を漏らした。ふふ、と嬉しそうにシーダは微笑んで、マルスの手にある書類に視線を止める。
 それに気付いたマルスは、悪戯の色を含んだ瞳をシーダに向けた。

「……グルニアの北で、漸く薔薇が咲いたそうだよ。今度お忍びで一緒に見に行こうか」
「まあ、それは楽しみですね」
 新婚旅行行ってなかったからね、というマルスの言葉に、シーダは照れの混じった笑顔をより一層深くした。


「でも、もしかしたら独り占めして僕達には見せてくれないかもしれないな。何せ世界にたったひとつの、大輪の白薔薇、だからね」