「え、また戦場に出られるのですか?」
 せっかく戻ってきたばかりのセティが、休む間もなく再び出発する用意をしているのを見て、ティニーはお茶を注ごうとしていた手を止めた。
「ああ、魔道書の修理と兵力の補充のために戻ってきただけなんだ。一目君に会いたくて来てしまったけれど、すぐに行かなくては」
 ティニーは思わず眉を下げた。せっかく、長くいた前線からやっと戻ってきたというのに、椅子に腰かける間もなくセティはもう出ようと言う。それも、最前衛へ向かうのだそうだ。
「そんな…もう少しくらい、休憩なさってはいかがですか?」
 彼を困らせるだけだと分かっていたが、ティニーはそう言わずにはおれなかった。案の定、セティは少しもてあますような微笑を浮かべて、ティニーを見る。
「そうはいかないんだ。すぐに戻ってこいとのセリス皇子の厳命なのでね。」
 そう言って、優しくティニーの前髪に触れる。
 ティニーは引き留める手を辛うじて引っ込めて頷いた。
「…お気をつけて、どうかご武運を…」
「ああ、君も無事でね。」
 言い聞かせるように彼は言うけれど、今のところティニーは今回の作戦からは外れていて出撃命令は下っていないし、危険なのは明らかにセティの方であった。
 セティの微笑みを見上げて、ティニーは彼が扉の外に出るのを見送る。名残惜しく彼の後をついて、3歩ほどの距離を保って追いかけていく。

 てくてく。
 てくてく。
 てくてく......。

 部屋から随分離れて、歩いて行くけれど、ティニーはずっと後ろにくっついて来た。
 セティは仕方なく一旦立ち止まり、振り向く。ティニーもそれに合わせて足を止める。二人の目が合う。
「…ティニー、どこまでついてくるの?」
「え、えっと…あの、あの…。」
 答え難く俯く。セティは口元に小さな苦笑を浮かべ、彼女に手を伸ばした。ほんのりと薄紅に染まった滑らかな頬を、指の先で何度か撫でる。ティニーが少し顔を上げる。
「名残は惜しいけれど、このままでは陣営まで付いて来かねないな。もう部屋に戻った方がいい。」
「は…、はい…」
 ティニーはしゅんと肩を落とし、泣きそうに目を細めた。滲んだ涙に濡れた頬に伸びるまでに、そう長い時間はかからなかった…。


 ちなみに、余談であるが。
 どう足掻いても、二人の時間が延びてしまうであろうのが明らかであるからこそ、
 セリスの命令が「できるだけ早めに戻ってこい」でなく「問答無用で速攻戻ってこい」であるのを、
 二人は知らない――。