青と緑のコントラストが美しい大地アリティア。肥沃な平原と、水源の豊富な地として人々からは「希望溢れる大地」と言われている。 だが「希望溢れる大地」と言われる所以は、豊かな自然のみで語られていだけのものではなかった。この地の希望の代名詞は、今やこの地を治める若き盟主の存在を指すことになっていた。 アリティア国王マルスは先の「英雄戦争」における解放軍の盟主であり、長きに渡る戦いに勝利を治めた英雄である。神剣を携え、アカネイアに平和をもたらしたとする英雄は今や大陸全国家の元首と言っても過言ではなかった。 そんな彼の元に一通の書簡が送られてきた。それはアカネイア自由騎士団長ジョルジュから贈られた書簡であり、その内容はアリティア国王であり、かつアカネイアを統括する立場にあるマルスをも動揺させるものであった。 「旧グルニア王国黒騎士団カミュ将軍投降、その処遇について」 先の、さらにその先の大戦の戦犯と言える男の処遇を決定できる者は既にこの大陸ではマルス以外に存在しなかった。 グルニア黒騎士団とは、暗黒竜戦争においてドルーアの尖兵としてアカネイア大陸全土に戦慄を奔らせた黒衣の最強騎士団である。 勇壮たる最強騎士団の将帥にあるまじき白皙の美貌に黄金の髪をなびかせ、全軍をまるで己の手足の如く采配し、高貴かつ柔和な姿からは想像を絶する程の恐るべき智謀を持って「名将」と呼ばれた男こそグルニア黒騎士団カミュ将軍であった。 彼は戦争後期のグルニア城攻防戦にて「炎の紋章」のもとに集った解放軍からの降伏勧告を受け入れず、旧グルニア王国に最後まで仕えた騎士として最後を遂げた、歴史の表側ではその様に記されるべき男であった。 だが真実を知る者は他に存在した。それは少数の人間ではあるがその者達は皆、先の大戦でも、またその前の大戦でも彼の行動がなければ大陸は混沌とした闇の世界になっていたであろう、という吟遊詩人達がこぞって詩にするであろう内容が真実であることを。もちろんアリティア国王マルスも真実を知る人間の一人であった。 旧グルニアの黒騎士団総帥カミュの出現は、この様な形で少しづつではあるが平穏を取り戻していた大陸に、喧騒を与えるのであった。 アカネイアの旧国都パレス、その日国を挙げての行事が催されるかと錯覚に陥るような物々しい喧騒につつまれていた。何故ならこの日、アリティア国王マルスの呼びかけの下にある会議が開かれようとしていた。 それはグルニアの黒騎士カミュの処遇を決定する会議であった。そしてその渦中にいる男はパレス郊外のとある邸宅にて表面上拘束という名のもとに静かにその時を待っていた。 そんな彼のもとに訪問者が訪れた。アカネイア自由騎士団長ジョルジュの案内の元、アリティア国王マルスと共に二人の少年と少女が、カミュが拘束されている一室に現れた。部屋はけして広くなく、大人が10人も入れない大きさであった。その中には使われることのない家具と、本来貴族が邸宅とするものにしては簡素なベット、そして誰が運んできたかは判らないが花瓶に花が生けられていた。そして何より印象的なのは、窓からよく差し込む陽光であった。 カミュはその平穏な表情に若干の笑みを浮かべ、そして騎士の礼をとり跪いた。 「ユベロ王子にユミナ王女、お久しぶりでございます。」 マルスに促され二人は前に出ると、ユベロ王子は若干の動揺を抱えた声色で言った。 「よく帰ってきてくれました。本当に嬉しく思います。」 カミュは顔を上げると目の前の王子と王女を眩しそうに見つめる。 「大きくなりましたね。この様に再びあなた方にお目通り叶ったこと、神に感謝したく思います。」 動揺を隠せぬ双子の兄とは対照的に、妹ユミナははっきりとした口調で言った。 「何で早く帰ってきてくれなかったか、その様なことは言えないのは判っているつもりです。あなたが先の大戦でグルニアの旗のもとに行ってきた行為がこの大陸の人々をどれだけ苦しめたか、そしてその為に貴方がどれだけ苦しまれたかも・・・。」 カミュは目を閉じる。彼の脳裏には数多くの過ちと、そして贖罪の中を駆け抜けてきた記憶がよぎって行く。そして目をあけるとマルスの方に向き直る。 「マルス王子いえ、マルス王・・・。私は感謝しなければならない。グルニアの再生の為ではない。私がかつて身命を捧げて仕えた国の罪なき子等を守り、そして成長させてくれたことを・・・。」 マルスは何も言わずに頷く。 「そして我が身の処遇をこの大陸のもっとも公正な場にて裁いていただけることも感謝致します。これで思い残すことは何もありません」 カミュの言葉に彼の気持ちの全てが込められていた。カミュはこの大陸に帰ってくることがどの様なことであるかを知っていた。それは自分の犯してきた罪を償う為の手段を判断されること。それが極刑に繋がることもありうるということ、裁きの場が公正であればある程、である。 「今日はユベロ王子とユミナ王女より貴方に渡したいものがあるのです。」 「渡したいもの?」 二人の兄妹は頷くと、彼に一着の軍服を手渡した。カミュは冷静な顔に驚きを浮かべる。 「これは・・・。」 それはグルニアの軍服であった。それもグルニア国軍総帥の証である黒騎士団長の紋章と徽章が入ったものであり、かつてカミュはその軍服を纏っていた。 黒衣に目を向けるカミュにユミナは言った。 「私達兄弟はグルニア国民を代表して貴方が再び祖国に、私達の国に帰ってこれるよう最大の弁護をさせていただきます。」 ユベロもつづけた。 「あの時、私達を助けてくれた様に・・・。そうだよね、ユミナ。」 それは解放戦争の発端とも言えるグルニア将軍ロレンスの反乱時に、彼の死とともに国都を追われグルニア国内を逃亡していたある日の出来事のことであるとカミュは気付いた。 ユミナは微笑みを浮かべた。 「ええ、あの時は誰だか判らなかったけど。変装するならもう少しましな変装をした方が良かったわね、シリウス。」 その年頃の少女らしい人の悪い笑みを浮かべながらユミナが言うと、さすがのカミュも苦笑を漏らす。 「あの時は完全に素性がばれることはないと思ったのですが・・・。あの様な慣れないことはすべきでありませんね。」 カミュの意外な発言に一同笑声を上げる。この場にいる全ての者が、この様な冗談を言う彼に新鮮さを感じていた。何故なら皆彼の本来の性格や自然な言動に接したことがなかったからである。戦乱、そして戦場の彼からでは感じ取ることが出来ない優しい空気がそこには広がっていた。 しかし、すぐにカミュは表情を変えると改めて二人の兄妹に言った。 「この様なお心使い、深く感謝致します。あなた方のその姿を見てグルニアの未来は光に満ち溢れるであろうことを今確信しました」 さらに表情には真摯なものが挿す。 「私は裁きを待つ身、これからのことは何一つお話することは叶いません。しかし、これだけは言えます。あなた方が進まれる道はけして順風満帆だけのものではないでしょうが、あなた方と共に歩んでいくことになるグルニア国民にはきっと光が満ち溢れるだろうことを」 マルスを始めその場にいた者全てが、カミュが言葉を選びながら語る本当の気持ちに心を打たれていた。公正な場にこの男が晒された時どの様な結末を迎えるか、現時点ではマルスでする想像することが出来ないからである。それでも祖国を按じるこの男の気概は例え憎むべき立場にいた存在であったとしても敬意を表するべき人間であるということを改めて痛感するのであった。 そしてその時がやってくる。 カミュはパレスに入った。英雄戦争時、皇帝ハーディンと雌雄を決する戦い以来の入城であった。カミュはアカネイア自由騎士団長ジョルジュと共にその時を城内の一室にて待った。 「それにしても貴方は物好きだな」 ジョルジュが突然口をあける。 「考え方によっては貴方は間違いなく英雄なんだ。グルニアの黒騎士でなく、英雄戦争の功労者として大手を振って帰ってくればこの様な晒し者にならなくてもすんだものを。それをあえてこの様な形で再びパレスに訪れるとはな。」 ジョルジュはけしてカミュに対する嫌悪感からこの様な言葉を発したのではない。ジョルジュはカミュがいなければ人類の存亡すら危うかったことを十分認識していた。 カミュは彼独特のゆったりとした動きでジョルジュに振り向くと、それと同様にゆったりとした口調で言った。 「死は罪を償うための選択肢の一つでしかない。もしその様な形の裁きを受けるなら甘んじて受けようと思う。」 「貴方は死が恐ろしくないのか。」 カミュはゆっくりと頷く。 「それじゃあニーナ様のことはどうなのだ。」 ジョルジュの鋭い視線にカミュは目を外すと、窓の外を眺めながら言った。 「それだけが心残りだ。」 そんなカミュをあっけにとられながら見るジョルジュは苦笑を漏らしながら言った。 「貴方は変わっているな。まるで悟りを開いているかの様なことを言ったかと思えば、人間らしい感情も恥かしげもなく言ってのける。俺にはとても出来んな、そんな態度」 再びカミュはジョルジュを見やる。 「彼女は言ってくれた。この大陸には私を必要としている人間がまだ存在する。そしてその様な人間に代わって私を守ってくれると。あえて私が選んだ道を彼女は受け入れ、そして共に歩んでくれる、今はそれだけでも自分が生きてきた証を得ることが出来たと深く信じれる」 ジョルジュは一息つくと、笑みを浮かべた。そして己の手を差し伸べる。 「カミュ、正直俺は貴方のことを憎んでいた部分があった。一度はグルニア黒騎士団に国を滅ぼされた。そしてニーナ様は貴方のことで苦悩の日々を送ることになった。だが結果的にはアカネイアを救ったのもニーナ様を救ったのも貴方だった。今は感謝したい。これが今の俺の本心だ。」 差し出された手をカミュは掴む。そして握手を交わす。 「ありがとう、君には本当に迷惑をかけてしまった。」 手を離すとジョルジュは鋭い視線で言った。 「でも忘れるな。ニーナ様が言った貴方を必要としている人間以外に、一番近くで貴方を必要としている人間がいることを」 カミュもまた緩やかな表情に強い意志を秘めながら頷く。 「カミュ殿、時間です。」 そんな中、使いの者がやってくる。 そしてカミュは己れの運命を左右する刻に身を委ねた。グルニアの壮麗な黒衣を纏って。 |
うわぁうわぁ…!(萌悶) お帰りカミュ様・・・っ!お帰りなさい…!(満面の笑顔) ジョルジュとの会話に思わずにやにや(悦)。 紋章キャラで1,2番目に萌えな二人のやりとりがツボです。 そして何より仮面のことつっこまれても平静装えるカミュ様萌え(笑)。 |